フィラデルフィア染色体
副題に「遺伝子の謎、死に至るがん、画期的な治療法発見の物語」とある。
まさに、その副題の通り、がんの原因である異常染色体の発見から治療薬開発をめぐる製薬会社間の熾烈な争いまでを追ったノンフィクションである。
「フィアデルフィア染色体」とは慢性骨髄性白血病および一部の急性リンパ性白血病に見られる染色体の異常のことである。
フィラデルフィアとは、この遺伝子を発見した研究者が所属する大学の場所にちなんで命名されたとのこと。
内容は遺伝子にかかわることだからかなり難しい。
そして、最初のうちは登場する人の多さに困惑してしまう。
それもそのはず、この物語は1960年頃、のちにフィラデルフィア染色体と呼ばれるようになった染色体異常が発見されてから、2001年に慢性骨髄性白血病(CML)の画期的な治療薬がFDAの承認を受け、その後、次々と新世代治療薬が開発されていく2010年位までの半世紀近くの物語なのである。
その間、世界中の研究者たちが関わり、その成果の上にこの新薬が完成したのである。
まるで大河ドラマの小説を読むようなものである。
後半は治療薬の開発に関わるもので、医師のブライアン・ドラッガーと製薬会社ノバルティスの物語となる。
臨床の現場で手の施しようもなく死んでいく患者たちをどうにかしてあげたいという強い思いを持っていたドラッガーはCMLのような希少疾病の薬は患者数の少なさゆえに利益にならないとして商品化に対して消極的な製薬会社を動かし新薬の開発を実現させたのである。
それまでの治療のもとで死を待つだけだった患者たちに、新薬の画期的な効果により、一転新しい人生が開けていく件の内容は感動的である。
そして、この新薬の成功に続き、他のがんに対する治療薬開発に向けて研究が始まっているのである。
さて、製薬会社ノバルティスと言えば日本では、以前、血圧治療薬の臨床データ改竄で元社員が逮捕起訴される事件や、2014年にはこの白血病治療薬を含む副作用報告を怠っていたことが発覚し業務停止命令が下されるなど騒がれたこともあるが、世界最大の製薬会社だそうである。
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